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TACの原点に触れる

FILE No.1 営農関係職員全体の 対応力強化をめざす モデルJAのいま

京都府 JA京都にのくに

いち早く担い手対応強化に取り組み、TACのモデルJAの一つとされるJA京都にのくに。 今年度から、担い手への対応力のさらなる強化に向けた新たな取り組みが始まっている。

わずか1%の担い手で 販売品取扱高の3割を占める

 京都府北部の綾部市、福知山市、舞鶴市を管内とするJA京都にのくにでは、2008年にJA全農が「TAC」という愛称を決定する前の07年3月に「Total Agriculture Coordinator」の頭文字をとった「TAC」を設置し、担い手に出向く体制を構築。当初から現在に至るまで、常時3人のTACが管内の担い手を訪問している。
「全国のJAに共通する傾向だと思いますが、当JAも1997年に広域合併して現在のJAになって以降、支店の統廃合や職員数の削減などが進み、組合員との距離がだんだんと離れてしまっていました。一方、組合員も多様化し、意欲的な一部の経営体の規模拡大が進んでいました。そこで、管内10か所にある営農経済センターとの連携のもと、そうした担い手を訪問してさまざまな要望に応える専任の職員を本店に置いたのが、TACのそもそもの経緯です」
 JA京都にのくに営農経済部前部長の佐々木真さんが話す。営農企画課・営農支援ふれあい係前係長の大槻浩也さんは、TACが設置された当初から9年間、TACとして活動してきた。TACを統括していた佐々木さんとともに、この4月からはTACの任を離れたが、大槻さんはこの9年間を次のように振り返った。
「いちばんうれしく思うのは、『TAC』という名称が担い手の間に広く浸透したことです。このことは、TACを入り口としてJAが担い手に認められるようになってきている、ということでもあるからです。TACを縮小しているJAもあるなか、われわれが変わらぬ体制を維持できているのも、担い手に評価される活動ができていることの表れだと思います」

 JA京都にのくにのTACが訪問する経営体数は、個人・法人合わせて161(16年度)。TAC1人当たり50~60軒を訪問する計算だ。JA京都にのくにでは、TACと各地区の営農経済センターのセンター長の話し合いにより、訪問先を毎年見直しており、1割前後の変更があるという。
 14年度のJAの販売品取扱高はおよそ20億円。そのうち200軒に満たないTACの訪問先で、取扱高のじつに3割もの金額を占める。JA京都にのくにの正組合員戸数は約1万3000だが、そのわずか1%にすぎないTACの訪問先が地域農業、そしてJAの事業にとっていかに重要なのかが、この数字からもわかる。
「訪問対象の担い手のなかにはすでに大規模に経営しており、JAの事業をほとんど利用していないというところもあります。そういう方のところも訪問しますが、よい関係を築くのはやはり簡単なことではありません。しかしその一方で、わたしがTACになった当初はまだ小規模だった担い手が経営規模を拡大して、9年後の現在は地域農業をけん引するまでに成長し、JAともよい関係を継続できているというケースもあります。いずれにしても、担い手の経営発展をいかにサポートするかがまず重要で、その結果としてJAの事業にもつながっていくのだと思います」 と大槻さん。佐々木さんも、「TACによる担い手対応強化をしていなかったら、販売も購買も担い手のJA利用はおそらく今よりも下がっていたでしょう。もしTACがなかったら考えると怖いですよ」
 と、TACの重要性を強調する。

JA京都にのくにのTACの礎を築いてき た佐々木さん(中)、大槻さん(左)と、澤田さん(右)

TACを中心に取り組む 2つの組織活動

 JA京都にのくにでは、担い手への個別訪問のほか、TACが中心になって二つの組織活動を行っている。農業に関心のある人を対象とした「野菜の学校」と、水稲の担い手を対象とした「良食味米研究会」だ。
 JA京都にのくににおけるTAC設置と同時にスタートし、今年で10年めを迎える「野菜の学校」には、毎年20~30人の応募がある。実習圃場での10品目ほどの野菜の栽培実習を軸に、年間24回の実習や講義を行っている。受講者のなかには卒業後、JAの正組合員となってJA特産の「万願寺甘とう」などの生産部会に入る人もいる。また、さまざまな品目、品種を栽培する実習圃場は、地域に合った作物を探る実証圃場の役割も兼ねている。
「良食味米研究会」は、日本穀物検定協会が行っている食味官能試験に基づく食味ランキング最上位の「特A」をめざすべく、09年に設立。会員にはJA京都にのくに管内の水稲作におけるリーダー的存在の約40人が名を連ねる。
「管内の水稲作の底上げを図るために、まずは大規模経営体を中心に研究会を組織し、そこで得られた知見を全体に普及していければと考えています。
栽培データの取得、土壌分析、専用肥料の開発といった試行錯誤をしていますが、なかなか特Aは取れずにいます。
今年からまた仕切り直して前に進んでいければと考えています」(佐々木さん)

TACが主催する「野菜の学校」の様子。 講師はTACの伊東敢さんが務める

大槻さんに代わり 4月から新任TAC となった越後文恵 さん。法人代表に 栽培提案をする

本来のあるべきJAとして 営農職員全員をTACに

 今年度からJA京都にのくにが新たに取り組むのが、TACによる営農経済センター職員の強化だ。
「担い手にたいしてしっかりと対応していくために、本店にエキスパートを集めてTACとしたわけですが、各支店や営農経済センターで担い手に対応できるのが本来のあるべき姿。ですから、そこをめざして営農の職員のレベルアップを図っていこうというのがこの新たな取り組みの趣旨です」(佐々木さん)
 TACの思想と技術を営農の担当職員に広めることで、現TACをより高度でさらに特化した存在に成長させるというビジョンを描く。
「理想の職員像を思い描き、そこに至るまでの道筋を具体的にカリキュラムに落とし込むことができたので、あとは実践あるのみです」
 と、この取り組みを担う営農支援ふれあい係新係長の澤田誠さんは自信を見せた。TACのモデルともいえるJAで、また新たな動きが始まっている。

(※『地上』2016年6月号より。)
情報は取材当時のものです。


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