食と農のウェブマガジン Pikkari

若手のグループ化

FILE No.3 部会の垣根を越えた新たな活動が担い手を育てる 若手のグループ化

岩手県 JA新いわて

担い手への個別対応だけがTACの役割ではない。若手農業者に共通する思いをかたちにするために、新規作物の導入や担い手同士の交流ができる仕組みをつくり、若手を育成する。
そんな役割を果たしているJAの取り組みを紹介する。

 県北部に位置するJA新いわては、岩手県のほぼ半分、宮崎県に匹敵する広大な管内面積を誇り、18市町村をエリアとする。JAでは、7つの営農経済センターを設置し、各地域に9人のTACが本店のスタッフとして常駐、TAC1人当たり平均168人の担い手を担当する。しかも、うち4人は他の営農経済業務との兼務だ。こうした事情から、JA新いわてのTACには、効率的に担い手の声を拾い、JAへ伝えていくことが求められる。
「地域によって訪問対象の数も移動距離も違います。圃場が集中する場所を巡回したり、担い手が集まる会合に出席してその場で話を聞いたりするなど、家庭訪問だけでなく、それぞれのTACが効果的に声を集める工夫をしています」
 JA新いわての田中秀雄常務理事はそう語る。JAでは、TAC全員に携帯タブレット端末を配布。クレームなどすぐに対応すべきことは電話で即座に対応し、日々の担い手の声は日報として本店に報告する。報告を受けて、本店営農経済部が本店で対応すべきこと、営農経済センターで対応すべきことに仕分けし、一両日中に返答。中長期的な課題や経営判断が必要な問題については、月一回、本店で開催のTACミーティングで議論する。
 JA新いわてでも、地域農業の最大の課題は農業者の高齢化と耕作放棄地の増加である。農業生産を維持するために、若手農業者を育成することが急務だ。TACの活動でも若手の声を拾うことをとくに意識している。彼らの思いに応え、信頼関係を築くためだ。
「生産部会の会合には、60代以上の親世代が出てきます。しかし、高齢の人たちからは規模拡大や新品目にチャレンジするといった意見はなかなか出てきません。TACが若手の声を聞く受け皿となり、部会の枠を超えた取り組みをしてもらっています」(田中常務)

JA新いわてでは14年からの3か年計画「JA新いわて地域農業振興計画~日本一の産地チャレンジ運動」を展開。販売事業高500億円をめざす。TACの活動は、担い手経営体の育成・支援の一環だ

部会青年部の結成で若手の気持ちが変わった

 その一つが、宮古地区の若手による冬期出荷キャベツ産地化の取り組みだ。同地区ではTACが若手に声をかけ、野菜部会内に青年部を設立。現在30代を中心におよそ10人の後継者が活動をする。降雪が少ない沿岸部という地域性に着目、価格が比較的高値となる11~12月に出荷できるキャベツ『ふゆみつ』の栽培を提案し、担い手の所得向上に貢献している。また、これを突破口に、ブロッコリーやタマネギの栽培へと品目を広げている。「高齢化で耕作されない農地が増え、担い手にとってはいくらでも規模拡大できる状況。彼らは、その土地になにを植えたらより収益増につながるかという情報と、栽培ノウハウを求めています。そこにTACが入り込む余地があります」
 宮古地区を担当するTACの平坂博喜さんはこう説明する。若手をグループ化することは、TAC自身の業務の効率化にもつながる。若手農業者はもともとLINEやメールなどのやりとりに慣れている世代。一人一人に直接伝達して回らなくても情報が行き渡り、コミュニケーションも密にとることができるという。
 また、グループをつくって集団の取り組みにすることで、県の事業による資材代などの補助も受けやすくなる。また、一定の品質のものをある程度まとまった量で出荷しなければ、産地として市場に認めてもらえないという事情もある。
 若手の意識にも変化が現れてきた。これまで集荷場に野菜を持ってきても荷物を置いたらすぐに帰っていたのが、仲間同士で農業の話をするようになった。親から経営を分離して独立を志向する人が出てきたなど、これまでどちらかというと「親にやらされている感」のあった若手の気持ちが前向きなものに変わっていった。部会青年部での活動がきっかけでJA青年部にも入部し、地区の役員を務めることになった人も。要望が次々と出てくるようになり、今年は婚活イベントがしたいと話が盛り上がっているという。

JA新いわてで営農経済事業を統括する田中常務理事。JAの販売事業高は460億円(2015年度)で、うち畜産・酪農が6割を占める

TACはあくまでつなぎ役。指導・普及は関係機関と一体で

若手農業者による農地保全の取り組みを始めた地域もある。西根地区は古くからのホウレンソウ産地。それに続けと久慈地区も順調に生産を伸ばしてきた。一方で、連作障害による生産力低下の問題から、県の事業を活用し土壌消毒を実施することに。しかし、高齢のため作業に対応できない農家が続出。すると、地域の農地を失いたくないという共通の思いが、地域の若手農業者たちの心を動かす。このままいけば耕作放棄地が増えて、産地としてのブランド力も低下する。そこで、TACが連絡調整係となり、ホウレンソウ農家だけでなく、水稲や畜産など他の品目の農家も参加して、土壌消毒の取り組みを行っているのだという。
「あくまでもTACは農家のドアをたたくのが仕事。声を聞いたり、情報を伝えるつなぎ役、旗振り役です。農家が求める新しい技術や新品種の導入などは、TACや営農指導員が県の普及センターやJA全農いわて、資材メーカーなどと一体で進めています」(田中常務)
 取り組みの一つが、水稲の省力施肥技術「苗箱まかせ」の普及。省力化に興味を持つ若手担い手にTACが声をかけ、「上和野苗箱まかせ研究グループ」を立ち上げた。定期的に生育調査を行いながら技術の習得に励んでいる。
 リンゴなど果樹産地である二戸地区では、意欲的な若手を中心に「自営描夢(ジェイエム)研究会」を結成した。リンゴの新品種導入とブランド化による販売先の確保を、全農や普及センターとともに取り組んでいる。
 しかし、そもそも担い手対応はTACだけに任せておけばいいという問題ではない、と田中常務は言う。
「昔は農協職員が農家の軒先で話し込んでいたら、『まあ上がって飯でも食っていけ』ということがよくありました。もちろん、この時代にそういうことをしろと言うつもりはありませんが、要は担い手と職員がどういう関係性をつくれるのかということ。最終的には全職員がTACのように担い手と日常的に話をし、思いをJAにしっかりとつなげるようにならなければいけない。その糸口となるのが、TACの取り組みなのだと思います」

(※『地上』2016年6月号より。)
情報は取材当時のものです。


雑誌『地上』の最新号と購読のご案内はこちらへ