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大地の恵み

揖保乃糸(いぼのいと) 播磨(はりま)で紡ぐ伝統の手延べそうめん

2016.08.24兵庫県手延素麵協同組合 兵庫県宍粟(しそう)市(JAハリマ管内)

手延べそうめん「揖保乃糸」は、兵庫県を代表する特産品。約600年の歴史があり、国産手延べそうめんの約4割のシェアを誇る。農家の副業として始まったそうめん作りは、地域の一大産業に発展。伝統的な製造技法を受け継ぎ、日本の食文化を支えている。

そうめんは、天候に左右される〝生き物〟です

よく練った生地を幅およそ10cm、厚さおよそ5cmの麺帯にして、それを数本合わせてロールに通し1本にする。さらに、それを数本合わせて1本にと繰り返していく「板切」の作業

長年の経験をもとに「試し引き」の作業をおこなったあと、道具を調整し、効率的に伸ばしていく「小引き」の工程

 兵庫県宍粟市波賀町に源を発した引原川(ひきはらがわ)は、一宮町で揖保川と名を変え、たつの市を貫流し、姫路市で播磨灘に注ぐ。
 この揖保川流域を中心とした播磨地方で、豊富な水と良質のコムギ、赤穂の塩を原料に用いて育まれてきたのが、播州(ばんしゅう)手延べそうめん「揖保乃糸」だ。
 宍粟市は、たつの市をはじめとする揖保乃糸の産地の一つで、兵庫県手延素麵協同組合に加盟する多くの製麺所が軒を構える。
 揖保乃糸の製造を手がける岸本真樹さんは、高校を卒業して修業を積み、平成20年に厚生労働省認定「手延べ製麺技能士」の資格を取得。それを機に、父親から麺作りの主役を引き継いだ。
 製麺所の朝は早い。午前3時半に起床し、4時前には「生場(なまば)」と呼ばれる仕込み作業場に入る。
 作業は、小麦粉に塩と水を加えてこね合わせ、生地を作ることから始まる。配合比率は組合の基準をもとに、その日の温度や湿度によって微妙に調整し、均質な商品を生み出す。そこが、腕の見せどころとなる。
「そうめんは、天候によって切れたり伸びたりする〝生き物〟なんです。翌日や2日後の天気まで考慮して作業します」
 このあとおこなう作業は、「板切」や「小より」。切り出した麺帯(めんたい)を数本合わせて1本にする作業を何度も繰り返し、ロールで直径およそ6mmのひも状に細長くしていく。
「昔は、足で生地をこね、手でよりをかけたものです。機械化こそ進みましたが、伝統的な手延べの技術は変わりません」
 とは、父親の敦夫さん。
 その真髄ともいえるのが、「試し引き」の作業だ。掛巻機(かけばき)で8の字を描くように縄状によりをかけた麺を、手作業で50cmほどに引き伸ばす。熟成の進みぐあいや天候を予測できる長年の経験が求められる。
「小引き」までで、十以上ある工程のうちの半分。小引きを終えた麺ひもは「室箱(おも)」に収め、翌朝までじっくりとねかせる。「門干(かどぼ)し」と呼ぶ乾燥や結束は翌日の作業となる。こうして、よりや熟成に時間をかけて作られる麺はゆで伸びしにくく、こしのある歯切れのよい食感に仕上がる。

門干し作業は、室内で天井扇の風を当てて乾燥させる。真樹さんと妻の久美子さんは中学の同級生で、 3人の子どもを育てながら仕事に励む

乾燥させたそうめんは長さ19cmに切断して(写真上)、50gずつ結束する

湿度が安定する冬に最盛期を迎える

 播磨地方でのそうめん生産の歴史は古く、宍粟市一宮町にある神社には室町時代の記録が残る。その後、江戸時代に入ると、龍野藩が奨励して発展した。
 JAハリマ管内の波賀町、千種町(ちくさちょう)や一宮町(いずれも現・宍栗市)に、そうめん生産が本格的に導入されたのは、昭和40年代から。鳥取県との県境に位置する波賀町と、下流の一宮町は県下有数の美林地区で、製材業や木工業が盛んだったが、木材不況に見舞われた。敦夫さんも、元は大工だった。
 農家の冬場仕事でもあった林業による雇用の場がなくなれば出稼ぎが増え、農業が廃れることにもつながる。美しい水が豊富で、冬場はぐんと冷え込む気候風土が、そうめん作りに適した環境であることから、農閑期の副業として始まり、地域の一大産業へと発展していった。
 現在、管内のそうめん生産者は200戸を超えるが、ほとんどが農家でもある。JAは工場の建設資金の融資や燃料の購買など、多岐にわたって農家の起業を支援してきた。
 兵庫県手延素麵協同組合は、品質維持のために21人の検査指導員を置いている。検査長の堂田肇さんは元JA職員。昭和59年に同組合へ移り、産地振興に尽くしてきた。 製造するのは10月から翌年4月にかけて。とくに、寒い冬の時期に最盛期を迎えるのには訳がある。
「そうめん作りでは、湿度がいちばんじゃまになるんです」
 湿度が高いと麺が黄ばむ。低いと早く乾燥しすぎて切れやすくなる。適度な湿度は60〜70%。冬は湿度が安定しているので、良質の麺が製造できるのだ。
 原料の一つ、播州小麦の品種は『ふくほのか』と『ゆめちから』。
「粘りや弾力があり、もちもち感の強い麺になります。コムギの収量は天候に左右されやすいので、安定供給できる態勢を整えてほしいですね」

真樹さんの母親のさとみさんが作ってくれた「冷やしそうめん」。夏の定番メニューだ

世代を越えて親しまれる食品に

 真樹さんは、両親と妻の家族4人と従業員6人で毎日、小麦粉450kg分の麺を仕込む。
 手延べでは、麺の太さが1.7mm未満であれば「そうめん」と呼べる。揖保乃糸ブランドはそうめんだけでも7種類以上のラインアップがあるが、特級品や上級品ともなると、麺の太さが0.7〜0.9mm以下の極細であることが求められる。
 真樹さんたちは、2日めの門干し工程で、麺ひもを1.6mから2mへと徐々に伸ばしながら太さをその水準にまで持っていく。
「熟練技術とともに、時間や手間を費やした産物であることを、消費者の方々に知っていただきたい」
 同組合営業部企画課係長の天川亮さんは、そうめんを好む世代は50〜60代が中心だったが、大手食品メーカーとのコラボレーションやCM、ホームページなどを通じて幅広いメニューを提案し続けてきたことで、若い世代にも需要が広がったと言う。また、スーパーなどで消費者になじみの深い「上級品300g」に毎年、新しいレシピを封入している。


★お勧めのゆで方

①大きめの鍋で沸騰させた湯の中にバラバラと入れる(1人前2束100gに1Lの湯が目安)。
②ゆがく時間は1分半〜2分。炒め物に使う場合は1分くらいにする。
③ゆであがった麺はすばやくざるに移し、水であら熱を取った後、水を流しながらよくもみ洗いする。そのあと、氷水で締めると、さらにおいしくなる。


◎兵庫県手延素麵協同組合

明治時代になり龍野藩の保護がなくなったことから、そうめん製造業者が集まり明治5年に明神講、7年に開益社を創設。品質や職人の賃金の統一化などを図った。現組合の前身となる
「播磨国揖東西両郡素麵営業組合」はこれを母体として20年に設立された。組合員は現在、宍粟市、たつの市、姫路市、揖保郡、佐用郡の3市2郡に約450戸。生産量は年間約2万tで、国産シェアのおよそ4割を誇る。JAハリマのファーマーズマーケット「食彩館伊和の里」でも販売。

組合所在地/たつの市龍野町富永219-2
☎0791-62-0826

※『家の光』2015年8月号から。
情報は取材当時のものです。

取材木下正実
写真前田博史

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