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食用ホオズキ「恋どろぼう」 一度食べたら忘れられない!

2016.11.07齊藤金蔵さん はな子さん 秋田県上小阿仁(かみこあに)村 (JAあきた北央管内)

 食用ホオズキの産地化にいち早く取り組んだ秋田県上小阿仁村では、今シーズンの収穫が始まっていた。不思議な風味を持つ、この魅惑的な果実のブランド名は「恋どろぼう」。一度食べたら忘れられない味だ。どう表現したらいいだろう。甘酸っぱくて、南洋フルーツのような独特の風味があって。形容しがたい不思議なおいしさ、これが食用ホオズキを初めて口にした印象である。薄い殻に包まれた実は直径2cmほど、黄色からオレンジ色に熟していく。赤く色づく観賞用ホオズキとは別物だ。 原産地は南米ペルーとされる。上小阿仁村では、日本ではまだなじみの薄い食用ホオズキにいち早く着目し、産地化を進めてきた。

濃厚な甘みと爽やかな酸味

薄い殻をむくと、中から熟した実が出てくる。殻をむいて食べるというのが、また楽しい。実を割っても、黄色

西洋野菜に続く転作作物として奨励

 秋田県のほぼ中央に位置する山あいの上小阿仁村で、栽培が本格的にスタートしたのは平成10年ごろ。米の転作作物として奨励してきた米ナス、ズッキーニに続く第3弾として候補に挙がったのが始まりである。JAや村、農家が協働して、村営の「野外生産試作センター」で試験的な栽培に取り組み、味のよさ、珍しさに加えて、高齢者や女性にも扱いやすい軽量作物であることが決め手となった。
 齊藤金蔵さん・はな子さん夫妻が食用ホオズキを栽培するようになったのは、村での産地化が始まった2、3年後から。きっかけは、はな子さんのお菓子作りだ。
「村が特産品にしようと力を入れている食用ホオズキを使ったお菓子があれば、いい宣伝になるかなと思ったんです。ようかんやケーキなどを試しに作ってみたら、友人に好評でした。だったら、栽培からやってみようとなったわけです。買うより自分で育てたほうが安上がりでしょ」
 なにより不思議な味に魅了されたという2人。「恋どろぼう」というブランド名にも将来性を感じた。
「一度食べたら忘れない、恋人も忘れるほどのおいしさ、という意味を込めて、当時の役場やJAの職員が検討して名づけたんですよ」
 と、金蔵さんは目を細める。

頑丈な鉄パイプを支柱にした、齊藤家の食用ホオズキの畑。ハウス栽培も試したことがあるが、実に十分な甘みがのらなかったそうだ

小さな花をつける

殻が薄い茶色になってきたら熟したサイン。金蔵さんが順次、収穫していく

独自の栽培法でおいしさを追求

 村を挙げて食用ホオズキの特産化を進めているため、育苗は村の野外生産試作センターが担い、各農家は苗を購入、5月下旬に畑に定植する。齊藤家の栽培面積は約10a。畝を囲むように鉄パイプの支柱が立てられ、枝を誘引するためのひもが、頑丈に張られている。
「以前は木の支柱でしたが、台風で倒れたことがあり鉄パイプに替えました。2m以上に生長するので、倒伏対策をしっかりしないと」
「だれよりも、おいしいホオズキを育てたい」と口癖のように語る金蔵さんは、試行錯誤をし、独自の栽培方法を貫いている。たとえば株間。JAや村の指導では、定植する苗は10a当たり500本を基準にしているが、金蔵さんは400本。そのぶん、樹間を広げ、わき芽は剪定(せんてい)しないで、できるだけ多くの実をつけるように仕立てている。
「以前はしっかり剪定して、実の数を制限していました。そのほうが、一つ一つの実が大きくなるからね。でも、数を調整しなくても大きく育てる方法があったんですよ」
 その秘策は木酢液を使うこと。希釈した木酢液を定期的に散布することで、実の肥大化を促し、病虫害も予防できるようになった。ただ、希釈の倍率は「秘密」とのこと。こだわり派の金蔵さんらしい。
 収穫期は天候によるが、8月中旬から霜が降りる11月上旬まで。9~10月にかけてもっとも甘みが増す。実を包んでいる殻が薄い茶色になったものから順にはさみで一つ一つ収穫していくが、すぐには出荷しない。納屋の中で3日ほど追熟させることで、甘みを引き出していく。

はな子さんが指でかるくつまみながら実の状態を確認し、L(12個入り)・M(15個)・S(20個)サイズの3種に選別して出荷。収穫最盛期には、納屋がホオズキの甘酸っぱい香りで満ちるという

はな子さん手作りのホオズキのようかん(奥)とカップケーキ(手前)。ミキサーにかけたホオズキと豆乳のジュースはヨーグルトのような味わい

試作中のドレッシング

加工品が続々と誕生。新規栽培者の育成も

 上小阿仁村で現在、食用ホオズキの栽培を手がけているのは13人。殻のきれいなホオズキは殻付きのままパックに詰め、JAの共選でおもに東京の市場へ出荷する。市場価格が1パック(Lサイズ12個入り)500円の高値をつけることもあり、高級果実として流通している。
 一方、殻にしみや傷などがあるものは、殻をむいて加工用に選別していく。はな子さんは、この加工用のホオズキを使い、これまでにようかんやカップケーキなどを商品化し、村内にある道の駅「かみこあに」で販売してきた。ホオズキをミキサーにかけ、食感がなめらかになるように2回こしてから寒天を加えて練り固めたようかんは、甘みと酸味のバランスが絶妙である。
「ホオズキは濃厚な甘みだけではなくて、爽やかな酸味があるのが特徴ですね。この風味を丸ごと生かしたくて、昨年、商品化したのがこれ」
 と出してくれたのが「乾燥ほおずき」。まさに、うまみが丸ごとギュッと凝縮されている。「ワインのつまみに最高!」と人気上昇中だ。業務用の乾燥機を購入し、試作を繰り返して到達した乾燥時間の目安は「60℃で18時間」。はな子さんもなかなかのこだわり派である。
 さらにいま、ドレッシングを試作中。使うのは熟す手前、まだ殻の青いホオズキである。
「これまで収穫を終える頃、熟し切らなかったものは捨てていましたが、以前からもったいないと思っていたんです。酸味は強いけど、おいしく食べられるので。ミキサーにかけたホオズキに加える砂糖や酢などの分量を変えながら、試作しています」
 金蔵さんと丹精して育てたホオズキだからこそむだにしたくない、という思いもあるのだろう。
 各種ビタミンの含有量が多い食用ホオズキは、脂肪肝予防に効果があるといわれるイノシトールを含み、健康食品としても注目されている。 他県でも産地化が進むなか、先進地である上小阿仁村では、今年から村内の新規栽培希望者には苗を無料で提供。「庭先から育ててみよう」と生産者の育成にも力を入れている。「恋どろぼう」の里は、これからますます躍進していきそうだ。

〈産地情報〉

食用ホオズキの生産者は13人。平成26年の殻付きホオズキの共選出荷量は約700kg、出荷額は113万5000円。おもに東京市場へ出荷。加工用はJAから村内の道の駅「かみこあに」に卸され、村内外の業者が菓子類やジャムなどに加工。道の駅でも販売されている。

※『家の光』2015年11月号から。
情報は取材当時のものです。

取材佐々木 泉
写真鈴木加寿彦

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