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勝間南瓜(こつまなんきん) なにわ生まれの縁起物

2016.11.07細田仙次さん・ 智恵子さん夫妻 大阪府大阪市(JA大阪市管内)

江戸時代、天下の台所と呼ばれた大阪には、「なにわの伝統野菜」が数多くある。その1つ『勝間南瓜』は、大阪市発祥の日本カボチャ。長くとだえていた栽培を復活させ、新たな振興を図る取り組みが進められている。

40年以上の時を経て復活した希少なカボチャ

JA大阪市直売所・朝市会が運営している直売所には、収穫したての勝間南瓜が並び、来店客の目を引く

細田さん夫妻は平成9年から本格的に畑作を開始。府や市の提唱に積極的に応え、「なにわの伝統野菜」の振興に取り組んでいる

 大阪府は平成17年に「なにわの伝統野菜認証制度」を設けた。約100年前から府内で栽培されてきた独自の品種を発掘し、復活させようと17品目の野菜を認証。このうち、大阪市が原産地の野菜は『勝間南瓜』をはじめ8品目ある。
「かつて、栽培を手がけたことがある農家も残っています。いまのうちに栽培技術や栽培体系を確立し、継承していきたいと考えています」
 そう語るのは、大阪市なにわの伝統野菜生産者協議会の会長を務める細田仙次さん。細田さんが住む大阪市東住吉区は肥沃な砂質土壌に恵まれ、古くから野菜栽培が栄えた。
 勝間南瓜は、東住吉区にほど近い大阪市西成区(江戸時代の勝間村)が発祥地の日本カボチャだ。
 形状は扁平(へんぺい)で、深い縦溝とこぶがある。直径は15〜20cm、果重は800g〜1.2kgと小ぶりだが、味がよかったことから昭和30年代までは大阪市南部一帯で作られていた。34年には、作家の今東光(こんとうこう)が、「こつまなんきん」のあだ名で呼ばれる、しっかり者の河内(かわち)女性を主人公にした小説を発表し、その名を全国的に有名にした。
「西成区の生根(いくね)神社に、『こつま南瓜祭り』という神事がありましてね。風邪や中風(ちゅうぶう)の魔よけのため、冬至にカボチャを振る舞う。勝間南瓜は無病息災を願う縁起物だったんです」
 だが、都市化が進み生産が減少するとともに、生産効率の悪さや、表皮が柔らかく長距離の輸送に不向きだったこと、食生活の欧米化などが理由で西洋カボチャに取って代わられ衰退。祭事でも入手できない状況が、40年以上も続いていた。
 復活のきっかけとなったのは、平成12年のこと。住吉区の漬け物業者が、和歌山県和歌山市の農家で種子を偶然発見。その種子を、大阪府立環境農林水産総合研究所の食とみどり技術センター(旧・農林技術センター)が増殖し、生産を奨励した。
 細田さんは、16年から作付けを開始した。
「昔懐かしい作物でしたし、都市農業振興のシンボルにしようという行政やJAの熱意に押されました」

柔らかい表皮についた土を、たわしでていねいに落とす

勝間南瓜の若い実。熟すと果皮が緑色から赤茶色に変わり、甘みが増す

生産緑地として残った貴重な圃場。チョウやトンボが飛び交い、都市住民のオアシスにもなっている

都市部の農地を守り栽培の伝統を継承

 細田さんが妻の智恵子さんと営む農園は、大阪市を代表する都市公園・長居公園の近くで、マンションやビルが建ち並ぶ市街地の一画にある。
 圃場(ほじょう)には、8月の中旬から下旬にかけて収穫期を迎える勝間南瓜が青々と葉を広げ、トマトやピーマンなどの夏野菜と実りを競っていた。
「マンションに暮らす人はオアシスのように感じられるのか、よく立ち寄っていかれます」
 細田さんは、大阪城がある中央区の出身。小学4年生のときに空襲で家が焼け、祖父の代から農地があったこの地へ移ってきた。
「終戦後、食べる物がないのでサツマイモやジャガイモを植え、勝間南瓜も長いあいだ、作っていました」
 昭和29年に高校を卒業し、新聞社勤務を経て自動車メーカーに就職してからも、休日には両親の農作業を手伝ったという。
 京都府京都市で生まれた智恵子さんも戦争中は、農家だった母親の実家に疎開し、農業を体験。細田さんが定年退職後、いっしょに畑作を始めた。
「畑は草との闘いですが、草引きは無心になれるので大好きなんです」
 勝間南瓜の栽培法は、一般的な西洋カボチャと変わらないが、病気に弱く、手間ひまがかかる。セルトレーに種をまくのは4月初旬。中旬過ぎにポットにあげ、5月の連休ごろに定植する。
 たいせつなのは、つるの剪定だ。主茎を3本仕立てにして子づると孫づるを伸ばし、ひ孫あたりで止める。
 6月初旬から7月半ばにかけ、梅雨の蒸し暑い時期の作業になるが、
「目を離すと暴れますし、雨風が吹くと、それはもうたいへんなことに」
 と、細田さんは笑う。
 また、雨が降ると白かび病やうどんこ病が発生しやすくなるため、畝にマルチを被覆。水がたまると、穴をあけたり実を動かしたりして対処する。
 細田さんは、大阪府のエコ農産物生産の認証を受けている。綿実油かすなどの有機物を主体にした土づくりと肥培管理をおこなっている。
「街なかで生産緑地を守り、伝統野菜の栽培を維持するためにも、環境に配慮した農法を心がけています」

府と市の認証シールを貼って出荷。「なにわの伝統野菜を都市農業振興のシンボルにしたい」と細田さん

ロールケーキなどの洋菓子にも勝間南瓜を使ってもらおうと提唱している

レシピを普及して若い消費者をつかむ

 勝間南瓜は、栗カボチャと呼ばれる西洋カボチャと比べ、甘みがあっさりしている。果皮や果肉が柔らかく、味つけしやすいのが特徴だ。智恵子さんは、かつお節と昆布でとっただしで、カボチャだけを炊く。
「義母から教わった昔の炊き方です。シンプルですが、他の野菜と炊き合わせをしなくてもおいしくいただけます」
 大阪市なにわの伝統野菜生産者協議会は、東住吉区と住吉区の農家16戸で組織。大阪府が伝統野菜の認証制度を創設した翌年の18年に結成され、勝間南瓜は6戸の農家が、20aほどで栽培している。
 地元の青果市場に出荷しているほか、JA大阪市本店で毎週月〜金曜日に営業している直売所でも販売。協議会の事務局を受け持っているJA大阪市組織活性対策課考査役の寺川卓也さんは、
「高齢の人には思い出のある食材なので、心の癒やしになるようです。配食サービス業者が、よく買い付けにきてくれます」
 と語る。
 課題は、若い消費者層の開拓だ。
「昔から、ようかんや茶巾絞りなど菓子の用途もありました。ケーキなどの洋菓子にも用いてみてほしいですね」
 勝間南瓜は27年から、市内のホテルでも利用されるようになった。11月に長居公園で催す「大阪市農業フェア」では、さらなる販路拡大をめざす予定だ。

〈産地のレシピ〉

勝間南瓜の豚肉巻き

【材料】(2人分)
勝間南瓜(厚さ7mm、長さ8cmに切る)……10切れ
豚ロース薄切り肉……10枚
オリーブオイル……大さじ3
〈たれの材料〉
しょうゆ……大さじ2弱
砂糖……大さじ2
酒……大さじ2
【作り方】
❶豚肉を広げて勝間南瓜を巻く。10本作る。
❷フライパンにオリーブオイルを入れ、①の巻き終わり部分を下にしてふたをし、中火で焼く。
❸焼き色がついたら裏返して同様に焼き色をつけ、ふたをし、弱火で蒸し焼きにする。竹串を通して、すっと入るようになったら取り出す。
❹フライパンの油を拭き取り、たれの材料を入れて中火にかける。プツプツと大きく泡だってきたら、③を戻し入れ、転がしながらしっかりとたれをからめる。
❺器に盛り、好みの野菜を添えて、できあがり。

※『家の光』2015年11月号から。
情報は取材当時のものです。

取材木下正実
写真本野克佳 写真提供●JA大阪市

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