“日本ワイン”とは、日本で育てられたブドウだけで造られたワインのこと。近年飛躍的においしくなったと注目され、ワイナリー(醸造所)も年々増加中です。「ワインは農作物」と話すワインジャーナリストの鹿取みゆきさんが各地のワイナリーを訪ね、その魅力をお伝えします。


左から「シャルドネアンフィルタード」3085円、「スパークリングワインキャンベル・アーリー」1645円。『キャンベル・アーリー』のワインは海外での評価も高い

今冬で35号が出る『コルク』。ワイナリーのスタッフが執筆に当たる

副工場長の赤尾さん。都農町への愛情は深い

共に歩んできた契約農家の黒木玲二さん

文 | 鹿取みゆき |
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写真 | 下曽山弓子 |
調理 |
宮崎県都農町の日向灘を見下ろす小高い丘の上に、「都農ワイナリー」はある。1996年に設立された第三セクターのワイナリーだ。ときには台風が襲来するこの土地は、ブドウを育てる条件に恵まれているとは言いがたい。しかしそれにもかかわらず、第三セクターのワイナリーとしては、いち早く品質重視の方針を打ち出し、時間と手間を惜しまずに、かたくななまでに、それを貫いてきた。
使っているブドウは都農町と隣の川南町産のみ。生食用として地元の人たちにもなじみ深い品種『キャンベル・アーリー』のワインが、ワイナリーの生産量の半分以上を占めている。
こうした第三セクターのワイナリーは、周囲から生食用ブドウの規格外品の加工所としてみなされることが多く、都農ワインとて例外ではなかった。
「初めは、ワイナリーと生産者の間でつかみ合いにならんばかりの意見のぶつかり合いもありました」
と副工場長の赤尾誠二さんは振り返る。とはいえ、話し合いを繰り返し、このブドウでこそ、おいしいワインを造ろうと、両者が同じ方向を見つめられるようになった。土づくりを工夫したり、雨よけネットを掛けたり、さまざまな努力を積み重ねた。そして今では、『キャンベル・アーリー』から、辛口、中甘口、スパークリングワインと、コストパフォーマンスの高いロゼワインを送り出している。どれもアセロラのような甘酸っぱい香りにあふれ、果実味が豊か。ワインをあまり飲み慣れていない人にもお勧めしやすい。
一方で、都農ワインは、ヨーロッパ原産の品種の栽培や醸造にも果敢に挑戦を続けている。
また町内の人向けに、『コルク』という広報誌を年に2回発行し、2015年で18年めを迎えている。
「町の人たちの取材を重ねることで、知らずに引き出しが増え、ワイナリーとしての理念もみえてきました」 とは工場長の小畑暁さんの言葉だ。
地域と共に歩む都農ワインには、日本ワインの進むべき可能性がみえている。