“日本ワイン”とは、日本で育てられたブドウだけで造られたワインのこと。近年飛躍的においしくなったと注目され、ワイナリー(醸造所)も年々増加中です。「ワインは農作物」と話すワインジャーナリストの鹿取みゆきさんが各地のワイナリーを訪ね、その魅力をお伝えします。

阿部さん(左)は、日本酒の醸造会社に勤めていたが、ワイン造りに興味を持ち、同ワイナリーに入社した。若い農家、伊藤光司さん。新しい品種『ピノグリ』に挑戦中


左から「月山ワインソレイユ・ルバン 甲州シュール・リー2014」1836円、「月山ワインソレイユ・ルバン ヤマソービニオン2013」1836円、「月山ワイン豊穣神話 甲州」1404円
文 | 鹿取みゆき |
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写真 | 家の光写真部 |
調理 |
山形県庄内地方の中山間部に、この10年でワインの品質が著しく向上したワイナリーがある。
ブドウはすべて庄内地方産。JA庄内たがわが管轄する櫛引(くしびき)、朝日などの地区の組合員の農家から購入している。最近は、各ワイナリーが自社農園を拡大する傾向がみられる。こうした状況のなか、すべてのブドウを栽培農家から購入しているにもかかわらず、これほどまでに品質を向上させることができたのは、じつは異例なことだ。
一連の変化において、醸造を担当する阿部豊和さんが果たしてきた役割は大きい。なかでも彼が商品化にこぎつけた「月山ワイン ソレイユ・ルバン甲州シュール・リー」は、このワイナリーが日本じゅうから注目されるきっかけとなった。『甲州』は、ワインに仕込まれる量がもっとも多い品種。その9割は山梨県で栽培されているが、櫛引地区も250年以上の栽培の歴史を持つ。
「櫛引地区は『甲州』が栽培できる北限だといわれています。豊かな酸にも恵まれ、このブドウとしては異例の20度近くまで、糖度が上がります。これは地域の財産です」
と阿部さんは語る。じつは、櫛引地区の土壌は、地区内を流れる青龍寺(しょうりゅうじ)川が氾濫を繰り返し、礫(れき)を多く含む。そのため稲の栽培には適さず、ブドウの栽培が広まったとの話も伝わる。『甲州』は地元の農家を支えてきたブドウでもあったのだ。ワインはきれいな果実味を伸びやかな酸が支えて、味わいにメリハリがある。山梨の甲州ワインとは違った魅力を持っている。
最近では、地元の栽培農家たちと力を合わせて、冷涼な気候に適する新しい品種の栽培にも挑戦している。
「次の世代につなげるためにもこの地に根づく新しい品種を探したい。そして、地域全体の力をつけるためにも、やる気のある農家を育てたいと思っています」
と阿部さん。手ごろな価格のワインも多く、このワイナリーとワインのファンも着々と増えている。