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大地の恵み

レモンの島 黄金色に輝く畑

2016.04.13広島県尾道市(JA三原管内)

広島県は日本一の生産量を誇るレモン産地。瀬戸内海に浮かぶ生口島(いくちじま)と高根島(こうねしま)で栽培される「せとだレモン」は、品質、味ともに優れ、全国にその名をはせてきた。生産者とJAは、早くから食の安全性に着目し、安全なレモン作りと加工品開発に力を入れている。

温暖な気候に恵まれた生口島。「レモン谷」の地名がある垂水地区からは、瀬戸内に浮かぶ大三島や瓢簞島などの島々が望める

直径が5.5cm以上に育ったものを基準に、4月末まで順次収穫する。JA広島果実連の石川技師(右)の営農指導にも力が入る

 広島県の尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」のほぼ中間に位置する生口島は、尾道から海上18km。瀬戸内海に浮かぶ東西約8km、南北約5kmの島である。
 尾道と三原から旅客船も就航しているが、しまなみ海道を車で走ると尾道市街から向島(むかいしま)、因島(いんのしま)を経て半時間余りで生口島に着く。
 島とはいえ、400m前後の山々が連なり、中腹から山裾には段々畑が広がる。3月下旬、レモンは黄色く色づき、収穫を迎えていた。
 牧本弘明さんは島西部の垂水地区で40a(120本)のレモン畑を経営する。レモンは、柑橘類の中でも寒さと風雨にもっとも弱い作物だ。平成23年には昭和56年以来となる大寒波が襲来。他産地では、枝が枯れたり、果実が凍って腐ったりする被害が出た。生口島でも、収穫量が半減したという。
 生口島の年平均気温は15.5℃で、平成24年の降水量は1058mm。温暖で雨が少ないという好条件のなか、明治時代から栽培が営まれてきた。それから100年を超える歴史を持つ。
 とりわけ、垂水地区は、背後に島の最高峰・観音山がそびえ、水も豊富。大三島(おおみしま)や、NHKのテレビ番組『ひょっこりひょうたん島』のモデルになった瓢簞島(ひょうたんじま)を望み、日当たりのよい西側斜面に開けている。そのため、「レモン谷」の名が残り、国産レモン発祥の地との言い伝えもある。
 この場所が、牧本さんの自慢だ。
「今年(26年)の2月にも寒波がきて、珍しく雪が積もったのですが、やはり、ここの畑では雪焼けや霜焼け被害が出ませんでした。適地適作ですよ」
 と、笑みを浮かべる。

瀬戸内海の温暖な気候と日当たりのよい斜面がすばらしいレモンを育てる

肥効をよくするため、真砂土(まさつち)やバーク堆肥で土づくりをする。「真砂土を2cmほど敷いてやると、新根が出て木が若返ります」と牧本さん

栽培品種は大半が『リスボン』。果重は100〜140g。果汁が多く、酸味が強いのが特徴。香りも爽やかで清涼感のある風味が好まれる

皮まで食べられる「エコレモン」

 この生口島と、隣り合う高根島の二つの島から成るJA三原柑橘事業本部管内では、485戸の農家がレモン栽培に取り組んでいる。栽培面積は69haで年間約2300tを生産。国産レモンの3割強のシェアを誇る。まさにレモンが香る「黄金の島」だ。
 レモンの需要が大幅に拡大したのは戦後。食生活の変化もあって、レモンブームが到来した。
 牧本さんはレモン農家の三代目。昭和33年に就農し、37年には恭子さんと結婚。夫婦で、その推移を目のあたりにしてきた。
「てんびん棒で40kgほどの量を担いで山を下りると、1回当たり1万円の高値がついたんですよ」
 と、恭子さんは振り返る。
 38年には、全国の生産量のうち75%を「せとだレモン」が占め、日本一の産地となった。しかし間もなく、壁が立ちはだかる。輸入自由化で価格が大暴落したのだ。牧本さんたち生産者は、レモンの伐採を余儀なくされ、壊滅に近い状況に追い込まれた。
 この苦境を変えたのが50年代のポストハーベスト問題だ。輸入果物などの腐敗防止に使用される殺菌剤から発ガン性物質が見つかり、安全な国産品がふたたび脚光を浴びた。
 JAは52年に生協と産直取り引きを開始する一方、57年には全島を挙げて、いったん伐採したレモンの「一戸1a増植」運動を展開。日本でいち早くレモン産地の復興を成し遂げたのだ。
 牧本さん夫妻は3aで再出発。
「とげの少ない系統のよい穂木を甘夏柑に高接ぎしました。早く収穫できるし、樹勢が強く、長もちもするのが理由でした」
 栽培面では、「皮まで食べられるレモン」をめざし、有機肥料の使用や最低限の農薬使用、防カビ剤をいっさい使用しないレモン作りを実行。その名も「エコレモン」。平成15年に全国の環境保全型農業推進コンクールで優秀賞を受賞し、20年には、県の「安心!広島ブランド」特別栽培農産物の認証を受けた。営農指導担当のJA広島果実連業務部の石川祐介技師は、抱負を語る。
「化学肥料や農薬の使用を半分以下に抑えていることもあって、秀品率は7割。これを慣行栽培並みの8割にまで高めるのが当面の目標です」

P-プラスレモンは端境期の6〜8月に出荷。平成21年度に自動包装機を導入し、毎年、40t余り販売する

出荷規格は5段階。収穫後、汚れを拭い、傷の有無をチェックして選果板に通して分類する

「ふるさとレモン」(15g×6袋・185円)、「はちみつレモン」(500g・865円)など、開発商品の数々。※価格は税込み

加工品を開発し周年出荷も実現

 レモンは「四季咲き性」で、国内では10月上旬から翌年4月末まで収穫できる。JA三原は、この国産レモンの端境期にも生果を供給する周年出荷態勢の確立に力を入れてきた。それが「P-プラスレモン」だ。1〜3月に収穫したレモンを30μm(0.03mm)の穴があいた鮮度保持フィルム(P-プラス)で個別包装して冷蔵保存し、6〜8月に出荷する。JAと尾道市、尾道市立大学との産学官提携プロジェクトで、17年に商品化した。
「レモンは夏場に需要が多い果実です。香りが高く風味もよいと、評判がいいですよ」
 と、JA三原せとだ直販センターの土井博典所長は話す。
 このほか、JAはエコレモンを材料に用いた菓子やジュースなど加工品の製造・販売を手がけている。粉末タイプのレモン飲料「ふるさとレモン」や、やはり尾道市立大学との産学共同プロジェクトで果皮を利用して開発した「レモンピール」など、レモンの加工品は17品目にのぼる。
「エコレモンは、生果で出荷できない規格外の品が出るリスクを抱えています。それだけに加工品のアイテムを増やし、農家に収益を還元したいと考えています」
 と、土井所長はレモンに懸ける熱い思いを語る。
 日本一の産地になってなお、進化を続ける「せとだレモン」。島は、これからも黄金色に輝き続ける。


☆「せとだレモン」の産地
現在「せとだレモン」の約6割をエコレモンが占める。生口島と高根島では、485戸の農家がミカンの栽培と組み合わせ、69haでレモンを栽培する。平成24年度の生産量は2343tで柑橘類の中では温州ミカン(8077t)に次いで第2位。広島県内のレモン生産量(4970t)の48%。東京を中心に北海道から九州まで、全国の市場に出荷している。
問い合わせ/JA三原柑橘事業本部
☎0845-27-1885

※『家の光』2014年6月号から。
情報は取材当時のものです。

取材木下正実
写真前田博史

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